バスボムに、愛を込めて
「ご、ごめんね! でもハンカチ自体は清潔だから!」
慌ててマスクを装着し直し弁解するあたしを見て、お嬢が目に涙を浮かべながら笑った。
「羽石さんって……面白いですね」
「そ、そうかなぁ」
まぁいいや。とりあえずお嬢が笑ってくれたから。
でも、あたし以外にはちゃんと謝ってもらわなくちゃな――と、あたしが口にするまでもなく、お嬢は自分で答えを見つけたようだった。
メイクは崩れているけど幾分すっきりした表情で、彼女は言った。
「羽石さん、私、この顔をどうにかしてから戻るので、先に実験室行ってて下さい。葛西さんと……皆さんに、謝らなくちゃ」
「うん、わかった。……ねぇ、小森さん」
ベンチから立ち上がった彼女に、あたしは声を掛ける。
社長が、娘を思うあまりに立ち上げたこの企画。成功するのはもう社長の想定内みたいだけど、その思惑より上を目指したい。
「社長が腰抜かしちゃうくらい、いいもの作りましょ?」
ねっ!と下手なウインクを決めて見せたあたし。
「はい!」
お嬢は足元で花開くタンポポみたいな笑顔で、力強い返事をしてくれた。