バスボムに、愛を込めて


彼は振り向かなかったけれど、あたしの声は届いたはず。

最初から長期戦は覚悟しているもの。これくらいで、へこたれるあたしじゃない。

本郷さんが、どうしてキスができないのか。

好きじゃない寧々さんと、どうして付き合っていたのか。
……きっと鍵はその辺りににある。

“美萌……俺が間違っていた。もうお前なしじゃ生きられない”

いつかそう言わせてみせるんだ。その後は、眼鏡を外した彼とキスをするの。

やだ、瑛太さんたらこんなところで……

こんなところで……


「……こんなところで何やってるんだあたし!」


ぺち、とおでこを叩いて自分に突っ込む。

急げば本郷さんと同じ電車に乗れるかもしれないのに!

ガッと一歩踏み出し、走り出そうとしたけど足が言うことをきかなかった。


「忘れてた……足痛いの」


本郷さんと同じ電車に乗るのは諦め、あたしは痛みをかばうため変な歩き方をしながら駅へ向かうのだった。


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