Valentine's battle


  〔3〕


アルディスに言いくるめられた形になってしまったセシリア。彼女はアルディスから渡された包みを手にどうしようかと悩んでいるようでもある。

しかし、アルディスの『お兄様のプレゼントはなくなるはずよ』という言葉。それはセシリアにとって、神の福音ともいえるものだったろう。

だが、アルディスから渡された包みは可愛らしいもの。それを見た時、セシリアにはこれが自分の悩みを解消する、とは思えないのだった。

とはいっても、このところのアルフリートの求婚じみた行動。それが日に日にエスカレートして、困り抜いていることも事実。結局、セシリアは行動に出るしかないのだった。



「ふう……どんな顔すればいいのよ」



アルディスが指定したのは灰の月14の日。その日、アルフリートの部屋の前に立ったセシリアはそう呟いていた。

今日がどういう意味をもつのか未だに彼女は知っていない。それでも、自分から何かを渡した場合、どんな反応が返ってくるか。それだけは、おぼろげにでもわかったのだろう。

いかに主君であるアルディスに言われたことではあっても、それは我慢の限界をこえている。そう思ったセシリアはこのまま知らん顔でここから退散することにしたのだった。

しかし、それはそう簡単にできることではない。セシリアがそろりそろりとその場から離れようとした時。彼女の背後から、可愛らしい声がきこえているのだった。



「あら、セシリア。どこに行くの?」



その声に思わず硬直してしまっているセシリア。アルディスのその声はいつもの彼女の声とは違い、あたりに響き渡っている。そして、それに部屋にいたアルフリートが反応しないはずがない。

誰よりも大事な妹の声に慌てて部屋の扉をあけているアルフリート。そして彼はそこにセシリアがいるのをみつけたとたん、すっかり嬉しそうな顔をしているのだった。



「セシリア、何か用があるのかい」



ウキウキという表現が似合いそうなアルフリートの声。それをきいた瞬間、セシリアはその場から逃げ出そうとしている。しかし、そんな彼女の背後からアルディスの囁く声がきこえているのだった。



「セシリア、わたくしの頼んだことができないの? あれほどお願いしたのに」



今にも泣き出しそうなアルディスの声。それを耳にしたセシリアは、どうしようかという表情を浮かべていた。

なぜなら、片方は期待に満ちた様子のアルフリート。反対は今にも泣き出しそうな顔のアルディス。そして、自分の手にはいかにもプレゼントという包み。

進退極まったとばかりに、セシリアは天をあおいでいる。こうなったら、包みをサッサと渡すしかないとセシリアは思っている。

彼女は何も言わずに、グイッと持っていた包みをアルフリートに押しつけていた。よもやセシリアがこのような行動に出るとは思ってもいなかったのだろう。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたアルフリート。しかし、事情がわかったとたん、そこには喜色満面の笑みが浮かんでいる。



「勘違いなさらないでください。それはアルディス様からですわ」



セシリアのそんな声も耳には入っていないのだろう。アルフリートはここぞとばかりにセシリアの手を握りしめているのだった。



「いや、お前の気持ちはよくわかったよ。結婚式はいつにしよう。明日? それとも明後日? いつでもいいんだよ」


「アルフリート様、冗談ではありません」


「式は盛大にしようね。うん。早速、招待客のリストを作らないと。アルディス、忙しくなるね」


「そうですわね、お兄様。セシリア、お兄様のことお願いね」



あまりのことに口をパクパクさせて抗議するセシリア。そんな彼女の思いなど関係ないとばかりに兄と妹の間では結婚式の話が進められているのだった。



~Fin~




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