地の棺(完)
台風。

格子の隙間から覗く、荒れた空を見て、今の状況と重ねた。

雪君の話は続く。


「狭い島の中なのに、どこを探しても女性は見つかりませんでした。

そのうちに、女性は自ら島を出て行った、いや、神隠しにあったのだという人が出てきました」


「神隠し?」


「はい。島の外に出るには、村の漁船を使わなくてはなりません。

しかし漁船の持ち主は誰も女性を乗せていませんでした。

そのため、そんな話が持ち上がったのです」


雪君がわかりやすく説明してくれる。


「蜜花さん、神隠しというとどんなイメージがありますか?」


急に質問され、戸惑った。


神隠し……

わたしの中では、手掛かりが少ない状況で突然行方不明になった人の事をそう読んでいる、といった認識しかない。

そのまま伝えると、雪君は頷きながら振り向いた。


「そうですね。でも、もっと昔の人々はその言葉のままの意味、神によって隠された、と考えてたんです」


「神によって?」


「そうです。島民は加岐馬島の土地神が女性を連れ去ったのだと、そう思うようになったのです」


「土地神って……どんな神様なの?」


「加岐馬島では『地の竜』を信仰してます」


「地の竜?」


竜って空想上の生き物……よね?


「そうです。加岐馬は海に囲まれた小さな島ですが、昔から漁業よりも農耕が盛んでした。

島のどこで作物をつくっても、栄養価の高いものが収穫されるんです。
味もサイズも本土のものとは段違いで。

天災にによる飢饉が起こった時も、加岐馬ではその心配が皆無だった、と言われるほどでした」


そこで一旦雪君は言葉を切った。

黒曜石のような瞳が、ゆらゆらと揺れている。

彼の心の迷いを映しているようだった。
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