地の棺(完)
地の翼
シゲさんが去って、十分くらいはみんな無言だったと思う。

皆、俯き、話をするような状況じゃなかった。

それまで無言だった神原さんが立ち上がり、ヨロヨロとドアに近づく。


「先生っ」


快さんが慌てて声をかけると、振り向いた神原さんは疲れた顔で薄く微笑んだ。


「私は……自分の部屋に戻ります。

ちょっと……疲れました」


「でも、一人は……」


「いいんです。亘一さんが亡くなってる姿を見つけた時から、私は自分の事が許せなくて……」


亘一さんの名前を聞いた時、わたしは激しい後悔に襲われた。

犯人だと疑い、一人にしてしまったせいで死んだんじゃないか、そう思うから。


「亘一さんは……どうして?」


「多恵さんの体の上にベッドカバーをかけた後、左側の通路から変な物音が聞こえました。

見ると、食事部屋の扉は開かれ、亘一さんが倒れていたんです。

すぐに駆けつけ真下が、亘一さんはは数回痙攣した後、亡くなりました」


神原さんは自分の後頭部をトントンと数回叩く。


「ここ、首の付け根辺りをナイフで数回刺された事による、外傷性ショック死だと思います」


「ショック死……」


「体はそのまま食事部屋に移動させて、扉にはまた鍵をかけました。

中がどうなったか気になりましたが、さすがにもう……」


そこで言葉を切った神原さんは、ふっと表情を和ませる。


「蜜花さん。色々と話さなくてはいけない事があったんですが、勇気がなくてすみません。

柚子さんが加岐馬に来た時、本土から移り住んで間がなかった私は、とても嬉しかった。

どれだけ長く暮しても、他所者としてしか受け入れてもらえない立場がさみしくて、明るく朗らかな柚子さんの存在に救われました。

いつの間にか私は彼女を……」


そう言って神原さんは遠い目でわたしの後ろにある壁を見上げた。

しかしその表情はすぐに固まる。


「どうしたんですか?」


神原さんの目線を辿ると、そこにはなにもない。

そう、なにも、なかった。

姉さんの押し花も。


「あ、押し花が……」
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