地の棺(完)
「簡単に着いてくると思ってたのに」


低い声で吐き捨てるように言った初ちゃんはそのまま背を向け、一人で中に入っていった。

わたしは彼女の変貌に驚き、立ち去るその背中を無言で見つめる。

昨日の初ちゃんからは想像がつかないような、冷たい横顔だった。

怒らせてしまったのかな。

初ちゃんはわたしを喜ばせようとしてくれて、それでここに案内してくれてのに、わたしはそれを拒否したわけだから。

初ちゃんの姿が見えなくなったので、気落ちしたまま扉を閉めようとドアノブに手を掛ける。

その時。すぐ手前の障子戸が開かれた。

中から、薄水色の着物を着た雪君が出てくる。


「あ……」


着物姿の雪君が、初ちゃんと重なって見えて、思わず声がでた。

雪君は目を見開き、驚いた顔でわたしを見る。


「蜜花さん? なにをして……」


「あ、えっと……さっき初ちゃんに……」


今この場にいることが、かなり気まずかった。

なんだかのぞき見していたみたいで。


「初に? 会ったんですか?」


「ええ。さっきまで一緒に」


雪君は眉をひそめ、考え込むような表情で俯く。

なにか問題があるんだろうか?

とても……罰が悪い。


「あの……ごめんなさい。家族専用の扉を開けてしまって」


わたしが謝ると、雪君は顔をあげ、ふっと微笑んだ。


「いえ、いいんです。この家の中は自由に移動していただいて大丈夫ですよ。

良かったら、今から少し案内しましょうか?」


「え……あ、でも……」


昨日の桔梗さんの事が気になって、躊躇してしまう。

そのことに気付いたのか、雪君は悲しそうに顔を伏せた。


「すみません。昨日の事……」


「や、違……ごめんなさい。
わたしが考えなしだったから……」
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