【ミドリガメ日記】みーちゃんと私
丘ヤドカリの水槽の中で、ぼおっと一郎君の姿が浮かび上がる。
それは、どこか儚くて、今にも消えてしまいそうで、私は胸のドキドキが止まらなくなった。
「一郎君!?」
「今まで、仲良くしてくれてありがとう。ちびちびちゃんの話し、沢山聞けて楽しかったよ僕」
「な、何言ってるのよ! これからだって、もう止めてって思うくらい話してあげるよっ!」
なによ。
今まで名前呼ばなかった癖に、なんでこんな時に名前を呼ぶの?
「ううん」
一郎君が首を振ったのが分かった。
「もう、僕は沢山生きたんだ。美味しいものも沢山食べられたし、みーちゃんやお姉ちゃんにも沢山可愛がって貰えてから……」
貰えたから何なのよ!
「そ、そうよ。一郎君がそんなに気弱な事言ってたら、みーちゃんも、お姉ちゃんも、お母さんも、お父さんも、悲しむよ!?」
私だって、大事なご近所さんがいなくなったら嫌だ。
「うん、でも、僕、もう行かなけりゃ」
声が、すうっと遠くなる。
まるで、命の灯火が尽きてしまったみたいに、静かに消えて行く。
「一郎君! 一郎君! 一郎君ーっ!」
私は声を張り上げた。
音にならない声を――。