新緑の癒し手
第二章 大いなる力

 村で生活をしていた頃、不自由のない生活というものに憧れを抱いていたが、いざ「不自由のない生活」が自分の身に訪れると違和感と共に羞恥心が生じる。現在、フィーナが抱いている感情は後者で、自分が出来るモノは自分自身で行いたいが周囲がそれを許さない。

 彼女は今、巫女専用の浴槽で身体を洗っている。いや、正しくは彼女に仕えている者達が洗っていた。勿論、身体を洗っているのは同性だが、誰かに身体を洗って貰うという経験がないので羞恥心が増し緊張してしまう。また、自分の体型に自信がないのも理由のひとつ。

 フィーナの体型は中肉中背というわけではなくどちらかといえば華奢に分類され、贅肉で悩む女の子が憧れる理想の体型なのだが、自分に仕えている者達の体型より劣ってしまう。

 それに、スタイルがいい者の特徴を持ち合わしていない。フィーナは贅肉が殆ど付いていないので腰に括れが存在しているが、それ以外で他者と張り合える部分がないので落胆が大きい。

 フィーナは悩みに付いて考えていたので、ついつい表情が暗くなってしまう。そのことに気付いた、彼女の身体を洗っている者が「何かありましたか?」と尋ねてくるが、彼女の言葉にフィーナは頭を振り「なんでもないです」と返すと、水面に移る自身の姿に視線を落とす。

「此方は、いかが致しましょうか。血が滲んでおりますので、取り替えた方が宜しいかと……」

「そのままで、お願い」

「ですが……」

「……お願い」

「か、畏まりました」

 ダレスが巻いてくれた包帯を解かれるところであったが、寸前で彼女の行動を制する。傷の治りがいまいちという理由の他に、彼が巻いてくれた包帯を勝手に解いて欲しくなかった。

 一通り身体が洗い終わると、フィーナは並々と水が張られた浴槽に沈み冷えた身体を温める。その間も複数の人間に監視されている状態で、のんびりと湯浴みができる状況ではない。

 早く出たい――その感情が彼女を突き動かしたのかフィーナは浴槽から出ると、後方で待機していた者達に「あがる」ということを告げる。勿論、これで湯浴み中の羞恥心が治まったわけではない。「不自由ない生活」の中には、全ての面で巫女を世話する人物が付いて回る。湯浴み後には彼女達に身体を拭かれ、着替えの手伝いもしてくれるのだが正直辛い。
< 46 / 332 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop