LAST SMILE ~声を聞かせてよ~



宗祐が目を覚ました。


眠い目をこすりながら、
俺と成瀬を交互に見つめる。


「……どういうメンツ?」


「いや、俺は回診に来たんだけど、
 成瀬は……」


「私もあなたの様子を見に来たのよ」


成瀬は俺に続けて言った。


なんだこいつ。


こんな顔も出来るんじゃん。


にっこりと宗祐に笑いかける
成瀬を見て、そう思った。


俺と話す時は仏頂面なのに、
宗祐に対しては


心を開いているというか
なんというか……。


「あなた、名前は?」


「俺?俺は―」


名前知らなかったのかよ!!


思わず拍子抜けした。


あんなに毎日通っておいて、
名前も知らなかったなんて……。


宗祐が名乗ると、
成瀬は満足したように頷いた。


「姉ちゃんの名前は?」


「私は成瀬。成瀬詩織」


「へぇ。詩織かぁ」


宗祐は欠伸をしながらそう呟いた。


「ねえ、宗祐くん。
 あなたなら分かるわよね」


「何が?」


「市が迫ってくる恐怖」


「えっ……」


成瀬の言葉に、宗祐は小さく声をあげた。


「ちょ、ちょっと成瀬。こっちに来い!」


俺は成瀬の手を引っ張って
廊下に連れ出した。


成瀬はきょとんとした顔で
俺を見つめている。


「お前、どういうつもりだ!
 手術を目の前にしてる患者に
 言うことじゃないだろう」


「どうして?」


「どうしてって……死ぬとか、恐怖とか、
 死を連想させるようなことを言うなんて」


「だって、本当のことじゃない」


成瀬は俯いてそう呟き。
それからゆっくりと顔をあげた。


「あの子は死ぬわ。近いうちに。
 私には分かるもの」


「なんだって……?」


「だって、あの子は同志だから」


背筋が凍りついた。


あの虚ろな目に光が宿り、
成瀬は不気味にも笑った。


「クロッカス」


「えっ……?」


「あなたにこの意味、分かるかしら」


成瀬は嘲るように笑った。


ますます不気味に思えてくる。


変なモヤモヤしたものが引っかかって、
それはなかなか取れそうもなかった。





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