瞬き


「花音(カノン)!いつまで寝てるの!もう10時過ぎてるわよっ」



母の怒声で乾いた目が開閉した。ふあ…と呆気ない音声がリビングに漏れる。


46インチテレビから零れる、耳障りなタレントの笑い声が癪に障った。何気なく視線を寄せる。朝のニュース番組はとっくに放送を終了したらしい。春休みに入って、ほぼ毎朝見逃さずに追ってた主婦向けの情報番組を、一週間足らずで切ってしまった。


短いコマーシャルの右隅に乗っかった数字は、母の言うように10を越していた。11になる前に下りて正解だ。あと数十分も眠りに落ちてれば、母の怒りは最高潮だっただろう。


テーブルに置かれたトーストを齧りつつお腹に手を添える。昨日の晩ラーメンを一杯平らげたお腹が、みっともなく膨れていたので、ぎゅうっと掌で押した。


牛乳を喉に通して、ヨーグルトに指先を持ってく。この一連の動作に脳が反応しない。寝起きだからだろう。本音を言えば寝足りなかったのだ。そんなふざけたことを口にすれば、真っ先に母が反論するのは想定内。



「今年は受験生なのよ。もっとしっかりしてもらわないと」

「わかってるってば」



呆れた物言いで母が言葉を濁す。正論すぎて反発すらできなかった。語尾が弱々しく緩む。
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