家へ帰ろう
「兄ちゃんさー。どうせ、東京の物価も知らずに田舎から出てきたんだろう? この辺で部屋借りようと思ったらアパートだってこの位すんだよ」
不動産屋は、傍にあった電卓でゼロが四つも並び、四捨五入したらゼロが五つになる数字を叩いて見せた。
「それに、兄ちゃん未成年だろ? 部屋借りるっつったら、親の同意が必要なんだよ、わかる? 印鑑とか証明書とか、そういうの用意できんの?」
小馬鹿にした物言いが癇に障ったけれど、何も言い返すことなんかできなかった。
それから、同級生が言っていた、甘くない。っていうセリフが頭をもたげる。
「悪いけど。忙しいからさ」
不動産屋は、目の前に出した紙を引っ込め。
用事は済んだろ? と言わんばかりに俺の前から席をはずした。
結局、半ば追い出されるような感じで俺は外に出た。
ヤバイ……。
どうしよう……。
野宿なんて嫌だ。
絶対嫌だ……。
けれど、どうしていいのかわからず、途方に暮れるばかり。
朝、家を出る時に黙って俺の背中を見送っていた母親の姿が浮かんで、目じりに涙が滲んできた。