家へ帰ろう


「どんなところ探してんの?」

客相手というよりは、まるで友達とでも話すような言い方だった。
けど、低い声が地響きのようで俺の心拍を速くさせる。

「えっと……。この辺か……原宿辺りに……」

不動産屋の威圧感に、俺はボソボソと小さな声で応える。

「予算は?」

対照的にやたらでかい声で返されて、ビクリと一瞬椅子からケツが浮いた。

「予算……ですか……?」

怖すぎて、益々声が小さくなる。

えっと……、えっとぉ……。

モゴモゴと口ごもると、大きな溜息をひとつつかれた。

「マンション? アパート? 1DK? 1LDK? 何階に住みたいの?」

矢継ぎ早に訊かれて、頭が回らず混乱してしまう。

とにかく、マンションに住むという事だけが自分の中で決めていた事だったのでそう告げると、ジロリと値踏みしたような顔をされた。

不動産屋はクルリと背を向けると、後ろにある、たくさんの抽斗から数枚の紙を取り出した。
その紙を俺の前に並べる。
紙には、マンションの外観や徒歩○分、部屋の間取り図なんかが書かれていた。

俺は、食い入るようにしてその紙を眺め、家賃の項目で目を止める。
と同時に息が止まった。

どれもこれも、自分が考えていた以上の金額。
いや、考えもつかないほどの高額だった。

……嘘だろ……。

たった一部屋に、風呂と便所が付いてるだけで、なんでこんなにすんだよ。

何も言えず黙ってしまうと、不動産屋はまた深く息を吐いた。
それから、呆れたように言ってよこす。


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