甘く熱いキスで

罪人のチャンス

白く透き通るような肌が青ざめ、普段は赤く可愛らしい唇も紫色になり冷たい。

ライナーはユリアを抱きしめ、できる限り2人を包み込む炎の温度を上げた。しかし、ライナー自身も海水に体温を奪われてうまく気を練ることができない。

辺りを確認するが、岸までは遠く、近くに避難できそうな岩もない。

ライナーは舌打ちをして賢明に手足を動かした。泳ぐ訓練はするが、さすがにこんなに冷たい海で、しかも小柄とはいえ意識を失った人間を抱えて泳ぐことは初めてだ。ライナーの軍服も、ユリアのドレスも、水をたっぷり含んで重く、ライナーが前に進もうとするのを邪魔する。

――「どうして……生きる、道を選んだの?」

ユリアがライナーに飛びついた瞬間、頭を過ぎったのは「守らなければ」ということだった。

一緒に死ぬこともできたのに、水には抗えないことを知りながら呪文を使っているのは……ユリアと子を生かすためだ。

ユリアの言うように、最初から諦めていた命だった。だから、ライナーにとってユリアを傷つけて運命から逃れた、その先の未来は想像する必要も、求める必要もなかった。

過去はすべて焼き払い、現在の自分を消して……すべて終わるはずだったのに。

どうして、こんな簡単なことに気づかなかったのだろう。

ユリアの中に命を宿すということは、ライナーの生きた炎(あかし)を灯すことだということに。そして、それを後悔していない自分――それどころか嬉しいとさえ思った自分はもう、未来を見ていた。ユリアと共に歩む未来、そして家族を持つという未来を。
< 142 / 175 >

この作品をシェア

pagetop