【完】女優橘遥の憂鬱
カメラマンサイド・時効の壁
 俺は職を逸していた。

監督から突然の解雇命令。
つまりクビを言い渡されたのだ。


それは時効が成立して一年経った頃だった。

用心にもう一年様子を見ていたらしいんだ。

だから又暫くはアルバイトで食い繋ぐしかないと思っていた。


監督の元に行ったのは、専門学校時代に付き合っていた彼女の紹介だった。


俺には行方不明になっている許嫁がいた。

母の同級生で、出産のために地元に里帰りしていたそうだ。


同じ病院の同じ産婦人科病棟で二人同時に産まれたらしい。


だから何かの縁だと信じた二人はお互いの子供を結婚させることにしたそうだ。

だから母には、身体は何時もキレイにしておくように言われていた。




 でも俺も男だ。
誘わられたら行かなければならない場合もある。


トイレに行きたくなって急いでいたら、真ん中にある障害者用のトイレが開いていきなり引き摺り込まれた。


『早く出して』
って彼女は言った。
俺は慌てて、股間に手をおいた。


『馬鹿ね。オシッコよ』

彼女が何をしたいのか判らない。
それでも俺は、我慢していた尿道を開放した。




 手洗いが終わった後の水道の前で、彼女は俺の股間に手をおいて擦っていた。


『まだチェリーボーイなんだってね?』

その本当の意味も知らずに、俺は頷いた。


『だったらそれにサヨナラしない? 今此処で』

彼女は鏡越しにウィンクをした。


俺が童貞だってことを生徒達が噂していて、偶然耳にしたらしい。

ソイツ等の視線の先に俺がいたのだそうだ。


その時どうやら俺に一目惚れして、急に遣りたくなったらしい。


『時間無いんでしょ? いきなりでいいよ。ホラもう、大きくなってる』

彼女はそう言いながら、俺の股間を彼女の局部に近付けた。


俺は彼女に急かされるままにそれを挿入させた。


『あぁ、思った通りだった。若いからビンビンきてるの感じる。凄いわー。ねえ、私の恋人にならない』

いきなり言われて面食らった。
でも俺は頷いていた。


その後で気が付いた。
俺の股間にゴム制の物が掛かっていることに。


『スキンって言うの。スキンシップのスキン。だからさっきのあれもスキンシップなのよ。私と遣る時は必ず付けてね。病気を移さないためよ』

彼女にそう言って、何食わない顔で障害者用のトイレから出て行った。




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