【完】女優橘遥の憂鬱
 彼女は写真や絵のヌードモデルをしていて、監督とも交流があったらしい。


『良い映像を撮る人を探しているのよ。彼処で腕を磨けばきっと何処でも通用するから』

彼女は確かにそう言った。


でも、行って驚いた。

それは、バースデイプレゼンショーと命名したグラビアの名前を借りたAV撮影だったのだ。


監督は報道では有名人だった。

だから、俺は喜んで新宿にあるスタジオまで行ったのだ。




 俺はあの後で、ヌードモデルの彼女と遣れなくなった。


あの夜。
監督達に見られながらも遣ってしまった行為が忘れられなくて、俺は同棲相手が堪らなく欲しくなっていた。

彼女もその日が安全日だったのだ。


心も身体も燃えていた。
だから俺はすぐに彼女を抱き付いた。


彼女は困惑しながらも、俺を受け入れてくれた。


『監督のトコで何かあった?』


『いや……、何も』
そう言ってみたが白状することにした。


『監督は……、AV監督になっていた』


『うん、解っていたよ』

彼女はあっけらかんと言った。


『彼処で刺激されたんだ……』

俺を見透かすように言う彼女を強引に押し倒す。

でも彼女は慌てることなく、スキンを渡した。




 でも、いざとなったらいきたがらない。

全てが煮えたぎっているのに……


その時気付いた。

俺の頭の中が、あの苦痛に満ちた悲鳴でいっぱいになっていることに。


『出来ない……』

俺は到頭泣き出した。


『あの時の声が忘れられない? 初めての時なんて皆あんなものよ。監督が後腐れのないヤツだって言っていたから大丈夫』


『後腐れ? そうだ確かにあの俳優達も……』

『彼女の親は借金を苦に自殺したらしいよ。あっ、そうだ。監督ったらアナタが気に入ったんだって。仕事手伝うように言われたわ』

彼女は解っていて俺を行かせた……
そう思った途端に冷めていた。覚めてしまっていたのだった。


『母さん、身体はキレイにしとかなければ駄目だね』

俺は母に謝った。


同棲相手は、彼女がヴァージンだって言うことも、全員に犯されることも承知していた。


後腐れない娘。
それが答えか?
彼女が何をした?
自殺した親の借金を背負わされて……
だからって遣りたい放題遣られていいのか?


俺はこの時、彼女を守ろうと誓った。



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