とろける恋のヴィブラート
「青山先輩、また今夜、例のラウンジに行くんですか?」


「え? あ、う、うん」


 物思いに耽っていると、不意に後輩から声をかけられて、奏はハッと我に返った。


「先輩がピアノが上手っていうのは前から知ってましたけど、ほんとプロみたいですよね。今日、残業じゃなかったら聴きに行きたかったなぁ」


 奏は最近、会社帰りに週に二、三回ほど、とあるラウンジでピアノ演奏をし始めた。


 そこは、奏が学生時代にピアノ演奏のアルバイトをしていたところで、久しぶりに訪れてみると、オーナーも変わらず、懐かしむように奏を迎え入れてくれた。


「また時間があったら聴きに来てね」


「はい!」


 本当に人前でピアノを弾くということに自信が持てたのか、それを確かめたかった。


 そう思い立った奏は、折り入ってオーナーにもう一度、無償でピアノ演奏をやらせてもらえないかと相談したところ、オーナーは“願ってもないことだ”と快く受け入れてくれた。
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