とろける恋のヴィブラート
「やめた」


「え?」


 ふっと奏の身体を抱きしめていた御堂の腕の力が緩められる。与えられなかった唇の温もりを乞うような奏のその視線に、御堂は少し困ったような表情で言った。


「そんな目で見るな。全て、何もかもうまくいったら……お前のこと、身も心も全部俺のものにしてやるから、覚悟しておけよ。それまで甘い蜜はおあずけだ」


「はい、首を長くして待ってます」


 コンサートが成功して、御堂が自分を力いっぱい抱きしめることを想像すると胸が躍る。 

 けれど、頭の片隅でプレッシャーと不安の入り混じった小さなシミが、奏の心を疼かせた――。
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