とろける恋のヴィブラート
「柴野主任……」


「なんだか顔色が悪いけど、大丈夫?」


 心配そうに顔を覗き込む柴野に、奏は力なく笑った。


 柴野と別れてから、奏はしばらくの間、自分の気持ちの整理がつくまで意図して柴野を避けていた。けれど、次第に自分がまるで子供じみた行動をしていると、奏は考えを改め、何事もなかったかのように過ごすのが一番楽であることに気がついた。


「大丈夫です……」


 柴野は、自分の過ちを今でも後悔していた。柴野の身勝手でメモを隠されたことも、思い出すとやはり内心未だに複雑だったが、幾度となく謝罪をされていくうちに、胸に引っかかっていたわだかまりも不思議と徐々に消えていった。


 そんな柴野だったが、別れても柴野という男は、奏の中で頼りになる上司であることにはかわりなかった。


「社長から聞いたよ、御堂のコンサートの話」


「……そうですか、あの、仕事には支障ありませんから」


「それで、首尾はどうなの?」


 コンサートをやると決めたものの、まだ会場さえ押さえられていないことに、奏の表情は重く曇っていった。
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