桜まち 


「新しい恋ねぇ」

そんなに恋がゴロゴロとその辺に落ちているわけないし。
しようと思ってできるものでもない。
すっかりさっぱり忘れられる恋なんて、どうしたらできるんでしょう。

単なる一目惚れだから、何の進展もなかったおかげで傷も浅くて済んだじゃないか。といわれてしまえばそれまで。
けれど、恋をしてしまったこの気持ちを、はいそうですか。と直ぐに切り替えられるほど私は器用ではないのです。

あーあ。
好きな人に避けられているかもしれないなんて、切ないなぁ。



仕事が終わると、櫂君はさっさと帰り支度をして、切なさにどんよりと身支度する私を急かす。

お隣に住んでいるにもかかわらず、望月さんの顔を見かけることもない日が続いていて、私はかなり電池切れの状態だ。
スイッチを切り替えられないが故の充電不足に、どんよりを通り越してそろそろ動かなくなりそうですよ。

イタリアン好きですよね? と私とは正反対で、充電満タンバリバリオッケーのような櫂君は、半ばスキップ気味で最近人気のあるお店に連れて行ってくれた。

中に入ると結構混んでいて、席が空いているのかと心配になっちゃうほどの盛況ぶり。

「いらっしゃいませ。奥へどうぞ」

店員さんは、櫂君とお知り合いなのか。
櫂君の顔を見た瞬間に僅かに頷きと笑顔を返し、私たちを奥の席へと案内してくれた。

案内されたテーブルのそばへ行くと、リザーブと書かれたプレートを店員さんがスマートに回収して、私たちの椅子を引いてくれる。

「櫂君。ここ、予約したの?」
「ええ、まあ。ちょっと知り合いが働いているので」

櫂君は、なかなかやるでしょ、僕。というように、若干悦に入った顔をする。

こんな労力を私に使っていないで、櫂君の好きな子に使ってみてはどうなのでしょうか。

私の妄想だけれど、アニメキャラのような可愛い女のこのためにとか。
禁断の人妻のためにとか。


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