桜まち 


そもそも、櫂君と隣同士に座っているというだけで、半ば目の敵のようにされているところもあるんだよね。

椅子に画鋲、キーボードに剃刀の刃、バッグの中に味噌汁。
なんて、古典的な嫌がらせはないのだけれど、視線がバシバシ刺さってきて、痛いのなんのって。
時折、よく知らない女性社員に通り過ぎざまに嫌味を言われちゃったりね。
女の嫉妬は恐いんだから。

だからといって、そんなことをいちいち櫂君に報告しても仕方ないから、黙ってはいるんだけれど。
酷くならないことだけを願う私です。

「よく飲みますね」

私の飲みっぷりに苦笑いとも取れる笑みを零し、櫂君ももう一杯ビールを注文している。

「夏ももうすぐ終わりだからね。ビールの美味しい季節のうちに、たーんと飲んでおかないと」
「そんなこと言って。鍋の季節だからとかクリスマスだからとか、年末だしとか。結局、菜穂子さんは色々な理由をつけて年がら年中ビール漬けでしょ」
「あれ。よく解ってるね~」

まだ一年ちょっとの付き合いなのに、櫂君は何故だか私のことをよく理解している。
さすが気配り上手君。

「櫂君、いい嫁になるよ」
「性別変わってますって」


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