恋のはじまりは曖昧で

「お節介だなんてそんな。本当に助かりました。どうしていいのか分からなかったので」

まさか初対面であんなことを言われるとは思わなかったので怖かった。
多少のトラブル(中学時代、クラスの男子に絡まれたこと)はあったけど、どちらかといえば、平穏無事に過ごしてきたから、驚いたのと同時に怖かった。
だから、田中主任の姿を見た瞬間にホッとしたんだ。

「そっか、よかった。何か困ったことがあったら何でも言えよ」

「はい」

その言葉に頷きながら、隣から香るスパイシーな香水の匂いにいつも以上にドキドキしていた。

海鮮市場に着き、海産物を買ったり昼ご飯を済ませると再びバスに乗り込んだ。
私は海鮮丼は食べれなかったけど、海の幸たっぷりの天丼を食べた。
『天丼?昨日も天ぷらを食べたのに』、という突っ込みを四方八方から受けたけど。

お腹も満たされ、寝不足も重なってバスの中で睡魔に襲われた。
無意識に身体を右側に倒したら、こめかみの辺りがヒンヤリとした窓に当たった。
覚えていたのはそこまで、私はゆっくりと眠りの世界に落ちていった。

ハッとして目覚めた時、前の座席が視界に入り、まだバスの車内かと思いながらあくびをする。
ふと、誰かの視線を感じて周りを見回すと浅村くんがニヤニヤしながら私を見ていた。
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