Sweet Mother's Day
思い出をたどる休日

「さて、……どこに行こう」

突然降ってわいた自分の時間だ。
せっかくだから有効に使いたい。

久しぶりにショッピングでも楽しもうか。

私は、ヒールのあるパンプスを鳴らして歩き始めた。
翔太が生まれてから、ヒールのあるパンプスは履けなかった。
抱っこをせがまれた時に、体を支えられなくなるから。

でも今日は一人だ。カツカツと響く音が妙に懐かしくて心も踊る。

昔、佑くんとデートをするときは、こんな風に歩いて行ったっけ。
会えるのが嬉しくて、いつも駅までの道を小走りで進んだ。見る景色が皆キラキラしてて、恋をしているって素敵だって感じた日々。

もっともあの頃は、このアパートには住んで無かった。
私はもっと別の小さいアパートで一人暮らしをしていて、佑くんは実家ぐらしで。
デートの待ち合わせはいつも私の最寄り駅だった。




 駅について切符を買った。まだ電車がくるには時間があったので、ベンチに座ってぼーっと景色を眺める。
休みの日だから駅にはそこそこの人がいるけれど、皆忙しそうに時計を見たりしている。

ふと、自分の指に目をやる。
飾り気のない手で、唯一目を引くのが左手についたシンプルな結婚指輪だ。

独身の頃は、この手にはいつもマニキュアが付いていた。
ただ塗るだけでは飽きたらず、ネイルアートを楽しんでいた時期もある。

でもその頃には、この指輪がない。
どっちの方が綺麗なんだろう、なんて埒もないことを考えた。

やがて響いてきた踏切の音を聞きながら、結婚した時のことを思い出す。


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