鬼部長の優しい手


「まあ、その、なんだ……
が、頑張れ。」

「は、はい。」


二人して急にかたことになり、
わざとらしく苦笑いを浮かべる。


部長はその後、休憩してくる、と言って、
慌てた様子で部署を出ていってしまった。


「……何よあれ。
あんた部長となんかあったの?」

「別になんにもないよ!」

まだ少し放心状態の私に山本くんと同じように
にやにやと嫌な笑みを浮かべながら、
私を問い詰める。

別に、特に何にもないよ!

……部長は怒ると怖いけど、普段は優しい。
それを知ったのは部長に誘われてご飯に行った時。
落ち込んでる私を気遣って、誘ってくれて。
今だって思い詰めてる私を元気付けようと、
励ましてくれただけ。

……だから、別になにもない!

「黛実が期待するようなことはなにもないよ!」

「へえ。じゃあ私が期待してないようなことは
あるんだ。」

「ち、違うよ!」


周りの人達に気付かれないように、
こそこそと話す私達。

黛実は全力で否定する私が面白いのか、
ずっとにやにやと笑いながら、
からかってくる。


……やめてよ。
そんなに部長のこと聞かれたら、
変に意識しちゃう。

……って、なに考えてるの、私!

私は今考えたことを振り払い、
慌てて書類整理に戻った。



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