豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「……佐田さん、ですよね?」
「うん」
「あれ!? あ、そうか! そうなんだ」


輝は一人合点がいった、というような顔をした。


「何が?」
光恵は不思議に思って、首を傾げて訊ねた。


「お二人は付き合ってるんだ。そっか、知らなかったです」
輝はそういうと、にっこり笑った。


光恵は驚いて「んな、まさか!」と声をあげた。


「ちがうちがう。今、ダイエット合宿中なだけ」
「ちがうんですか?」
「そうそう」


光恵は笑顔でかわしながらも、頭の中では何度もさっきのキスがリプレイされている。


本当にまずい。
平常心をたもたなくちゃ。

「俺、佐田さんのファンだから、オーディション受けたんです」
「へえ、ありがとう」
「いつか一緒の舞台に立たせてもらえるよう、頑張ります」
「俺も楽しみにしてるね」
孝志は笑顔でそう答えた。


何度もお辞儀をしながら、輝は帰って行った。


「いい子みたいだねぇ」
孝志はラグの上に座りながら、光恵に話しかける。


本当にはしないって言っときながらキスしたな。


光恵は「うん」と頷きながら考えた。


孝志は先ほどのことはすっかり頭から消えてしまったのか「テレビみていい?」と、訊ねる。


身を引き締めないと、また練習台にされてしまう。
やだやだ、こんなデブと……。


孝志の背中が見える。胡座をかいて、バラエティを見ていた。


輝は孝志を孝志だって分かった。
もうデブでも小デブでもない。


残り一週間。
この暮らしが終わるんだ。

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