キスなんて贅沢はいらないから
3
「いろは!・・・いろは!」

遠ざかっていくお兄ちゃんとは違う方向から、お兄ちゃんの声が聞こえる

あれは偽物だったの?

どこにいるのお兄ちゃん。

隠れてないで出てきてよ・・・!

お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!

その刹那に、はっと目が開いた。

目と鼻の先に、お兄ちゃんの心配そうな顔が私を覗き込んでいる。

「あれ・・・?」

「起きた?はぁ、良かった。いろは苦しそうだったから。」

いつもなら起きてお兄ちゃんのおはようを聞くところだったのに。

なんか心配させちゃったみたい。

「ごめん。何も覚えてないや。大丈夫だよ。」

嘘ついちゃったな。

何も覚えてないわけないもん。

でも、あれが夢で本当に良かった。

本当は今すぐお兄ちゃんに抱きつきたかった。

怖かったってこと言いたかった。

どこにもいかないよって言ってほしかった。

そんなことできるわけないけど・・・。

「そう。ならよかった。じゃあ俺先に降りてるから。」

お兄ちゃんはにこりと笑って、部屋から出ていった。

私は急に怖くなった。

今度こそ、いなくなったらどうしよう?

私はベットから飛び降りて、お兄ちゃんの後を駆けていった。

「お、お兄ちゃん!」

階段を降りている途中だったらしいお兄ちゃんは、

びっくりした顔でこちらを振り返った。

「どうしたの急に。」

「あの・・・ええと・・・お、おはよう・・・?」

当然どこにもいかないでねなんて言えるはずもなくて。

お兄ちゃんは不思議そうな顔をしていたけど、

その後クスクスと笑いながら、私におはようと言った。

おかしな子って思われたかな。

恥ずかしい・・・。






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