星空と君の手 【Ansyalシリーズ 託実編】

15.託実の想い人 -百花-



9月の下旬。

お祖父ちゃんの公認で、
託実と出掛けることが多くなった私。

香港の一夜だけだと思ってた夢のような時間が、
こうして今も私には続いてる。

LIVEに行かなくても逢える託実。
電話をかけると、声が聞ける託実。


ずっと待ち受け画面に写ってる
Ansyalの託実を凝視してた私が
今は……気が付いたら、
託実の名前が入った電話帳を開いて見つめてる。


一度で終わってしまうと思ってた託実からの誘いは、
終わることなく次々と続いて、
舞台鑑賞に出掛けたり、映画を見に行ったりと
時間があえば、同じ時間を過ごした。


デートって言っていいのかは怪しいけど、
私にとっては、これはデート以外の何ものでもなくて
夢のような時間を繰り返し始めて、一ヶ月が過ぎようとしていた。


今月もお姉ちゃんの月命日が来る。




いつもは罪悪感でいっぱいになる月命日。



不安になる心を、
縋るようにAnsyalの曲を聴きながら足掻いていた時間。


だけど……今は託実が傍に居てくれる。


そう思えるだけで、凄く心が安らいでいるようなきがした。



唯香とは、時折電話で連絡するものの
向こうも教え子のピアノの練習に忙しいって言う
そんなメールばかりが届く。


唯香は、あの年下の彼氏の教師でもあるんだもん。


そういう風に自分に言い聞かせながら、
私は自分の時間を楽しんで居た。


10月27日。


その月のお姉ちゃんの月命日。
その日も、託実さんと一緒に会う約束をしてた。



朝、5時頃から出発して
出掛けた痴呆の展示会先。


貸し切ったギャラリーに運び込まれた絵画たちを見に、
足を運んでくれるお客さまたちの接客をしながら
1日を過ごし18時頃に画廊についた私は、そのまま着替えを済ませて
託実の迎えを待つ。



何度もチラチラと腕時計に視線を落としながら、
鞄から取り出したコンパクトミラーで髪型を確認する。


おかしくないかな?
大丈夫かな?


包み込む緊張感から解放されるのは、
迎えに来てくれた託実の笑顔を見れたら。


「こんばんは。託実さん」


スーッと車を停めた託実さんの元に駆け寄る私。


「遅くなってごめん。
 乗って」

運転席から降りて、流れるような仕草で
助手席のドアを開けてエスコートしてくれる。
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