グレープフルーツを食べなさい
「あ……」

 上村の発言でようやく私が異動した後のことが想像できたのか、女の子たちは一気に不安げな表情になった。ただ美奈子だけは、悔しそうに唇を噛み締めながらじっと上村を睨みつけている。

「わかったらさっさと仕事に戻れよ。こんなとこで油売ってる暇なんてないだろ」

 私は彼女たちに見つかる前に、その場から静かに立ち去った。

 外食部まで廊下を歩きながら、私は心の中で上村の言葉を反芻していた。

 上村が私のことを気遣ってくれたことが素直に嬉しかった。

 あの春の日、会社の駐車場で冷たく女の人を置き去りにした上村と、私の立場を案じて、敢えて美奈子を庇った上村と、一体どちらが本物の上村なんだろう。

 いくら考えても、答えは出そうになかった。


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