コーヒーを一杯

キリキリと奥歯を噛みしめ、聞くに堪えない暴言を吐かれ続けている華を見ていると、次には、頭を押さえつけられ、床を舐めろと強制されている。

逃げなよ。

そんな奴ら蹴散らして、今直ぐ逃げればいいのに。

声にならない私の言葉が聞こえたみたいに、華が視線をこちらへ向けた。
苦痛に表情を歪めながらも、一瞬だけ私に向かって優しい微笑みを浮かべる。
その笑みが、大丈夫っていってるみたいに見えた。

なにがっ！
少しも大丈夫なことなんかないじゃないっ！

何で笑ったりするのよ。
何で笑えるのよっ。

あんなに酷い事言われて、ネットであることない事書き込まれて、制服だってもうボロボロじゃない。
心も体もボロボロになってるのに、どうして耐えたりするのよ。

華の視線を受けながら、キリキリと歯噛みしながら拳に力が入る。
私のほうが悔しくなって叫びだしそうになった瞬間、チャイムがそれを遮った。

華を虐めていた三人の手がピタリと止まる。
何事もなかったみたいに三人は席に着き、制服に靴のあとをつけた華だけがまだ床の上に座り込んでいる。
俯き加減で唇を噛みしめている華。

華……。

座り込んだままの華に手を貸してあげたい。
だけど、そしたら次は自分の番だ。
余計なことをして、と目を付けられるのは容易に想像できる。

澪のターゲットになるなんて、絶対にイヤ。

絶対に……。

華……ごめん……。
ごめんね……。