冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う
『会社の存続の目的は、病に打ち勝つための薬を開発すること。その目的を忘れて、後継者を誰にするかを争って時間を無駄にするわけにはいかない。俺がすんなり社長に就いて周囲がそれを受け入れれば、あとはそれぞれの業務に集中するだけだ。本来の目的を一秒でも早く達成すれば、助かる命は増えるんだ』
お父様の現役引退を受けて、紬さんがポツリと呟いた言葉。
その言葉には強い覚悟が見え隠れしていて、私にもその緊張感が伝わってきた。
社長であってもなくても、新薬の開発が順調に進むように道筋をつけることができればいいと、そう話す表情はとても素敵だった。
きっと、まだ若い紬さんに対する社内の風当たりは厳しいと思うけれど、だからといって紬さんが社長の職を辞すれば、それだけ業務に影響が出る。
社内の混乱も免れない。
それを危惧しているのは確かだろう。
ソファに並んで座っていた私の肩にぱふっと乗せらせた紬さんの頭。
私と同じローズ系のシャンプーの香りを感じながら、よしよしと撫でてあげた。
ほんの少し夫婦らしくなったように感じて嬉しくて、紬さんには見えないように頬を緩めた。