冷徹御曹司は政略妻の初めてを奪う



それはそれでいいとは思うけれど、その後始末を全て押し付けられた紬さんの忙しさは半端なものではない。

残業は当然というよりも、起きている間はずっと仕事をしているような、そんな日々。

いずれ社長となる彼をとりまく環境は、この数か月で一変した。

新薬を開発するいち研究員という立場から、会社の経営の最前線に立つ指揮者とでもいうべき立場への急激な変化。

予め決まっていた未来に立っただけだといえばそれだけのことだけれど、この変化を受け止めなければならない紬さんの心身ともに課される負担は相当なものだろう。

年齢を考えても、社内での実績をみても、紬さんが社長の職に就く理由は血筋ゆえということでしかない。

『世襲をやめたとすれば、次期社長にふさわしい人間は自分以外にたくさんいる』

ある晩、苦笑交じりに呟いた紬さんの表情は疲れを隠せないものだったけれど、だからといって自分が社長としてふさわしくないわけでもない、と付け加えた。











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