キミとの距離は1センチ
「伊瀬さんも、コーヒーですか?」

「うん。ここの、好きなんだよね」



言いながら、財布を開けて小銭を出そうとすると。

なぜか木下さんが、パッとベンチから立ち上がった。



「わ、私、おごります!」

「えぇ? どうしたの、いいよそんな」

「あの、今日の、お礼に……っおごらせてください!」

「………」



今日のお礼、っていうのは、たぶん昼休みの新庄さんの件だよな。

別に、そんなつもりで手助けしたわけじゃないんだけど……この子、そういうの気にしそうだしな。問答続けてぐだぐだ話を長引かせるより、一応ここは、素直に受け取っておくべきか。



「……わかった。じゃあ、お願い」

「……! あ、ありがとうございます!」



俺がうなずくと、木下さんはぱあっと、それこそ花が咲くように表情を明るくさせた。

ちょっと、驚くくらいの反応だ。思わず、まじまじと見つめてしまう。


彼女はバッグから財布を取り出しながら、俺の横に並んだ。



「伊瀬さん、どれ飲みます?」

「悪いね。モカの砂糖7gで」

「了解です」



ちゃりん、ちゃりんと小銭が機械を通る音がして、木下さんはボタンまで押してくれた。

コーヒーがカップに注がれていく音を聞きながら、俺はちらりと隣りに視線を向ける。
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