世界でいちばん、大キライ。
「そういう顔されると、年甲斐もなく、離したくなくなるな」

ギュッと抱きしめられて、ちょうど耳元の辺りで囁かれると、ぞくぞくとした感覚が全身を駆け巡り、桃花は力が抜け落ちそうになってしまう。

あの日、想いは通じたのだと何度も思い返すものの、時間が経つにつれ実感が薄れていっていた。
その実感を取り戻すように、桃花はそっと久志の頭に手を回して同じように抱きしめる。

「……離さないで」

頭上にぽつりと降らせた言葉で、久志にバッと身体を引き離される。
一瞬不安めいた瞳をしてしまった桃花だが、すぐに気のせいだとわかった。

大きく温かい手が後頭部を包むように添えられて、少しだけ強引に引き寄せられた。
重ねられた唇は、幸せのぬくもり。

その間も、何度となく締め付けられる胸に、気が狂いそうになる。
唇を離すのと同時に目を薄らと開くと、目を逸らした久志が恥ずかしそうにぼやいた。

「こんなの、ブランクありすぎて距離感わかんなくなりそうだ、オレ……」

赤い顔を隠すように、さっきまで触れてくれていたゴツイ手で口元を覆って俯く久志を見て、桃花は久志の右ひざに跨るようにして肩に手を添える。
真上から、潤んだ瞳で久志を見下ろすと、色づいた唇を小さく開く。

「私もです」

そうして次は桃花から唇を合わせると、不意打ちされた久志はソファに倒れ込んでしまう。
サラリと零れ落ちる桃花の黒髪がくすぐったい。
それを、久志が結うように、ゆっくりと両手でサイドの髪を掬うと、曝け出された桃花の顔に欲情する。

「酒入ってたら、そりゃ我慢できなくなるわけだ」

失笑する久志に不満げな目を向けると、頬を僅かに膨らました。

「私じゃなくても〝そう〟なってたって話ですか?」

桃花の訴えに久志は目を大きくする。
そして、眉を下げて申し訳なさそうに歪に笑った。

「いや。そこまで節操ナシじゃねぇって……っつっても、オレが何言っても言い訳にしかなんねーか」

口を尖らせてジッと見つめる桃花の頬に、手のひらを当てる。
真剣な瞳の久志に、桃花は小さく息を吐いた。
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