【完】キミと生きた証
俺にでもわかる。

仁奈子は不機嫌だ。



「なんだよ?」



お前に睨まれるようなことした覚えはねえよ。




「球技大会の日に、仁奈ずっとふたりのこと見てたよ。怪我した瞬君に、ちーちゃんが肩貸そうとしてたじゃん。どうして断るの?」



「当たり前だろ。んなことしたらあいつの体に負荷がかかるだろ。」



「テーピングくらい自分ですればいいのに。」



「しようとしたけど、イズミが勝手に・・」



「その”イズミ”の肩は借りてたの、ちーちゃんも見てたと思うよ。」



「んな細けえこと気にしねえだろ。」



「全っ然・・わかってない。」



仁奈子は俺の顔を見つめて、溜息をついた。





「あの日の帰り道で、ちーちゃん・・”何もできなかった”って泣きそうな顔で笑ってたよ」



「どういう・・意味だよ?」



何もできないって、なんのことだ。




「ちーちゃんは確かに、体のこともあるから、いろいろできないことだってあるよ。


でもあの日あんなに頑張って、瞬くんのところまで追いかけてたじゃん。

肩貸すよって言って。でも断られて。


したいと思ってできなかったこと、目の前でほかのひとが全部やってくれるんだよ?


ちーちゃんの気持ちわかる?」




ちとせの・・気持ち。


よかれと思ってしたことは、ちとせにとって最善だと思ってた。



「・・・あぁ。そっか。」



きっと、ちとせの気持ちは・・


その時の気持ちは「惨め」だ。



そのちとせが、俺にいった。



大人なコト、したいか?って。




・・・そんなちとせに何て言った、俺。




< 344 / 478 >

この作品をシェア

pagetop