Again
「すごい……すてき……」



感激しながらも部屋の中に足を進めると、人のいる気配を感じ取る。

トランクから手を離し、忍び足で部屋を見始める。テレビの前に脱ぎ散らかした洋服とワインの瓶やフルーツの食べ残しを見つける。



「仁さん、仕事から帰って来ているのかな?」



宿泊するスイートルームは、中心にピアノ、応接セットがあり、左右に扉がある。ホテルの構造には慣れている葵は、寝室だとみられる部屋のドアを、まずは開ける。その部屋は、

綺麗にベッドメイキングがされていて、此処に仁は寝ていないと分かる。



「いないか……。やっぱり仕事かしら」



人がいる気配に首を傾げながら、身体を反転して、部屋の中心を歩き、反対の部屋のドアを開ける。ドアノブに手を掛け、そっと部屋を開けると、ベッドには人が横たわっていた。



「仁さん……」



ドアを開け、人が寝いる様子を見て、仁だと声を掛ける。嬉しさに、ドアを全開にすると、



「え……」



隣には女が寝ていた。

何が起こっているのか全く理解できないまま、立ちすくんでいると、その女はむくりと起きあがった。その姿はキャミソール一枚だけだった。



「……ん、だあれ?」



けだるそうにカールをしてある髪を掻きあげ、色っぽく髪の間から葵を見る。半開きになった目と口は、誘っているようにも見える。

布団がめくれると、上半身は何も身に付けていない仁がうつぶせになって寝ていた。



「あ、あの……ご、ごめん、な、さい」



震える足をなんとか動かし、部屋を出る。一気に血圧が下がって行くのがわかる。手はとても冷たくなって、汗もかいている。自分が今どこに居るのかさえ分からない状態のまま、何とか自分のトランクを手に持つ。分かっていることは、このまま此処に居てはいけないという事だけだった。

スイートルームを出ると、今まで足が震えていたのが嘘のように、エレベーターまで走る。

何度押しても同じなのに、下へ行くボタンを何回も高速で押し続ける。



「早く、お願い早く来て」



その願いが通じたのか、直ぐにエレベーターが到着して、葵を包むように乗せ、階下へと降りて行った。

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