生徒だけど寮母やります!⁑



この春から彼らと同じ高校一年生である私、笠上景の家系は、代々、私立魔術妖術高等学校の運営に携わってきた



この高校はその名の通り、魔法使い、幽霊、妖怪、忍者、異能力者、など


一見、人間の身体を持った
この世にいるはずのない”伝説”たちの


しかし本当は存在する人格ある人々のための高校だ



一般的なの高校と違うのは2つ

全員が校内にある寮に所属すること

そして、昼休みを挟んだ午後の授業では、自分の魔術や妖術などの能力を磨く学科授業を受けること



個性がバラバラな仲間との寮生活や、生徒一人一人に合わせてカスタマイズしたカリキュラムを通じて

ここの生徒たちは、それぞれが特殊な身体を持った自分と向き合い

成長していくのである




そしてそういう私は実はこの学校には進学しない

非常に残念なことに、この学校で育てるような能力を持っていないのだ


春からは、一般的な公立高校への入学が決まっている




さて一般的ではないこの高校の現在の校長は、私の父親の従伯父の父

遠からず近からずなややこしい間柄なんだけど、このことからもわかるように、この学校は設立当初から親族全体で一丸となって運営されてきた


そんな中、私の家族は私が生まれる以前から、この高等学校の男子寮と女子寮、2つの寮の運営を担ってきたのだ






3月31日

今年度の入学式を目前に控え、私と両親は校長室に呼ばれていた



「寮のことで、相談があるんだ」

「なんでしょう?」



呼ぶなりさっそく話を切り出した校長(パパにとっては叔父)にパパが尋ねる


うむ、と頷いてから校長は喋り出した



「実は今年の入学希望者が244名と、例年に比べて多いんだ。特に男子がな」



通常この高校のクラス編成は、1学年6クラスとなっている


毎年定員をオーバーすることはない

むしろ希望者が少なくて5クラス編成になることも少なくないくらいだ



しかし今年はそうではなかったようだ



特別な能力を育成し制御する術を学ぶ高校は、日本を探してもここしか無いわけで___入学希望者は学力に関係なく、全員受け入れてきた


幼い頃から両親の仕事を見て手伝ってきた私も、今までのことを思い返して考える



その件で呼び出されたということは

「......つまり、新入生が来れば男子寮の定員がオーバーするということね」


私や、おそらくパパの頭にも浮かんだであろう予想をママが代表して言うと、校長はゆっくりと頷いた


「その通り。このままでは男子寮の空き部屋が大幅に足りない計算になる。

今空いている部屋は110部屋だろう?今年の男子生徒の人数は124人だから、14人余ってしまう」


「え、そんなに?」


例年には見られないほどの数字に私が驚くと、パパは一瞬こちらを見てから口を開いた



「それを知ってと言うわけじゃないですけど。ちょうど今年から、比較的大きい部屋は2人部屋にしようと思っているんです」


「ほう、そうなのか。良い考えだ」


「しかし、大きなつくりの部屋は全部で10部屋。どうしてもやはり、4人余ってしまいます」


4人という中途半端な人数

あと少し部屋があれば足りたのだけど




ん~……

.....もう仕方ないし、男子でも女子寮の空いてるところに入れちゃうっていうのはどうだろう?



「となると、空いているB寮を使ってはどうでしょうか」



え.....

B寮.....?



自分とは180度異なるパパの提案に、私は思わず目を丸くした



一瞬色々考えてから、パパ以外の三人で眉をしかめる



「いやパパ.....B寮ってむか~し使われてたあのB寮でしょ?結構大きいし、4人で使うにはちょっと広すぎるよ」


「けどまだ綺麗でしょう」


「うーむ」



校長は腕を組んで唸った


「確かに毎年メンテナンスもしているし使えることには使えるが......

君が男子寮を見て、京子(母)さんが女子寮を見て、男子寮Bは誰が面倒を見るのだね......」



そこで、言いかけた校長と私の目がパチリと合う



「あ、景ちゃん」

「......え?」



....................私?



私はハッとすると、いやいやいやと手を大きく振った



確かに私には、幼い頃から両親の手伝いで培ってきた、寮母としての豊富な知識や経験があった

将来的には寮母として働くのも悪くない、なんて考えている

しかしそんなのは当然、高校や大学を卒業してからのことだと思っていた



能力的には無理じゃない

無理じゃないけれど.......まさか高校1年生になる、今??



もし実現すれば、寮に入る男子とは同い年、しかも女子だし、勉強に励む(嘘八百)新公立高校1年生だし、部活だってする気でいたし、何回でもいうけど女子だし.....?



反論を試みようとしたところで、私はあることを思いついた



.....あ、もしかして..........



私の考えを読み取ったように校長が優しく私を見て、改まって言う




「うむ。君にはお母さんの純粋な人間の血と、お父さんの人狼の血が混じり、魔力が無いに等しかったね」


「は、はい......」

「.........校長、まさか」



そう、私の家系は人狼の一族

しかし母が純粋な人間ゆえに私にはかすかに人狼の血が流れているだけ


つまり、ここに通う生徒ほど人狼の能力を持っているわけではない


したがって、私はこの春から普通の公立高校に通う予定になっていたのだが......



.....って、なんか校長笑をこらえてる?

私が狼どころか、シベリアンハスキー程度の犬にしかなれないことを思い出してるのだろうか.....



「だから君はこの学校で魔術を学ぶことは難しい、と言うわけで公立高校を受験したんだったね。

どうだね?君が男子寮Bの寮母をやるなら、ここの生徒として入学することを特別に許可しよう。

寮の生徒は4人、両親を手伝ってきた君にとって難しいことじゃないだろう」


「校長......」

ママが目を見開いて呟いた


あまりに急展開で、冗談としか思えない


「......校長、真面目に言ってます?」




「ああ、もちろん。せっかく受験して合格したわけだし、今受かっている公立高校に行ってもいいがね」

「...........」


私は思ってもみない提案にしばし考え込んだ


もちろん公立高校でフツーのJKライフを楽しみたい、そんな願望もある

中学で仲良が良かった友人たちとも一緒だ



けれどその提案に、私の胸は一気にカッと熱くなってしまった



「......私、入ってみたい」


実はずっと入りたかったこの高校

今まで諦めるしかないと自分に言い聞かせてきた



そんな私を見て母は複雑そうだ

「た......確かに景なら知識もありますけど、でも魔力はほぼ無いんですよ?他の生徒とは違うんです。寮母をしていれば分かりますよ。どの生徒も本当にすごい、私のような一般人を母に持ってしまった景との差を、どうしても感じます」


しかしそれに対し、父は穏やかに首を縦に振った

「いいんじゃないか、京子。景には景の人生がある。」

「......あなた!」

「魔力がないとはいえ、景にだって夜に変化するという特殊現象はあるわけだし

この高校にいてもらった方が安全かもしれない」



そう言って私を嬉しそうに見つめる父に、校長が賛同する



「うむ、そうだろう」


「それもそうだけどでも..........ねぇ景、大丈夫なの!?」


「うん。ママ、私頑張る。頑張れるよ」


「景.....」




簡単に説明するとこんなわけで、私は男子寮Bの寮母をやることになったのだ
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