緋衣は、起きたばかりのベッドで大きく伸びをすると、サイドチェストに置いてある携帯に手を伸ばす。

時刻は朝の6時半。目覚めは良好。アラームが鳴るまで、あと10分ある。

自分でも現金だと緋衣は思う。安信の部屋に泊まった日から、寝付けない日々はぴたりと終わりを告げた。

亮祐の件は、自分で思っている以上に身心を蝕んでいた。それが、誰か一人でも現状を知っている人間がいるのだと思うと、甘えにも似たゆとりを身に付けたような気がして、前よりも心に波風が立つことはなくなった。とは言うものの、亮祐の事を全く考えない日がある訳ではなく、早いうちにきちんと話し合いをすべきだと強く思う。

あの舌足らずな女が亮祐の電話に出た日以降も、彼からの電話やメールはコンスタントにある。どうやら、第三者が勝手に携帯を拝借している事に気付いてないようだった。緋衣は寧ろ、素知らぬ顔をして亮祐とやり取りしている自分の方が怖い女のような気がしてならない。

もしもあの女が逆の立場ならば、泣いて喚いて縋りつくのかもしれない。プライドだとかそういった事ではなく、それは人間としての質の違いからくるものなのだろう。自分には、そういった真似事は決してできないと緋衣は思う。

また亮祐の事を考えている自分に気付いて、頭を抱えるように髪をくしゃりと握りしめる。

かわいくない女なのかな、私……。そう思ってすぐに首を横に振る。

「あー、もう! 朝からやめやめ」

緋衣は、大きく息を吸って吐くと、ベッドから起き上って出社の支度を始めた。