水平線の彼方に( 上 )
Act.7 夢
砂緒里達の披露宴以降、ノハラと会うのは、バイト先のコンビニだけになった。
あの日、砂緒里に肩を借りて泣いたせいか、私は以前よりも少し吹っ切れ、笑顔も出せるようになった。

ノハラからメアドを聞くのはどうでも良くなり、変化のない日々を送っていた六月の中旬、本棚を整理しながら、就職情報誌を手に取った。
実家へ戻って四ヶ月近く経つ。さすがにそろそろ仕事を見つけないと…と思い始めていた。

めくるページには、これと言ってやりたい仕事は載っていない。
初対面の人と上手く話せない自分には、営業職はまずできないし、経験と言っても事務が数年程度。
できる事よりもできない事の方が多く、溜め息が出る思いだった。

雑誌を閉じ、整理の続きをしようと目線を上げると、ノハラがやって来るのが見えた。

「いらっしゃいませ」

声をかけるとこっちを向いた。

「よっ!元気か⁉︎ 」

いつもの調子でそう言われると、元気があってもそうでない気がしてくる。

「まあまあね。そっちは相変わらず元気いいね」

羨ましい。こっちは仕事に就きたくても、性格が邪魔して見つけにくいと言うのに…。

「何だよ。仕事探してんのか?」

雑誌を指差された。

「うん…いいのなくて。初対面で人と話すの苦手だし…事務しか経験ないし…」

雑誌を棚に置き、レジに向かう。ノハラのタバコの銘柄はすっかり覚え、言われる前に準備ができるようになっていた。

「何かいい仕事ないかな…」

呟くように言った一言を、ノハラは聞き漏らさなかった。

「花屋なら紹介してやるぞ」

タバコ代を支払いながら、名刺入れを取り出した。
洋ランの透かし模様が入った名刺を差し出し、見せてくれる。

「駅前の花屋。小さいけど結構忙しいらしいんだ。今まで店長が一人でやってたんだけど、誰かに手伝って欲しいって言ってた」

印字された店の名前は『佐野花壇』。店長名は、佐野昌弥(さの まさや)と記されてあった。

「店長さん、男の人なの⁈ 」

思わず聞いた。

「うん…この人、とってもいい人なんだ。いつもいろいろ世話になってるし、花穂が働く気があるなら口きいてやってもいいぞ。どうする?」

「どうするって言われても…私、花なんか詳しくないし…」

悪い癖が出た。未経験の上、店長は男性と聞き尻込みした…。

「お前な…そんなこと言ってたら、いつまでも仕事見つかんねーぞ!何でもチャンスのあるうちに物にしとかないと…」

ノハラの言ってることはごもっとも。だけど、なかなか踏ん切りがつかない…。

「…じゃあ一度、どんな店か見に行ってみろよ!直ぐに分かるから!」

簡単に場所を説明して帰って行く。お節介なノハラの背中を見ながら、小さく溜め息が出た。
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