スセリの花冠
*****

翌朝。

ディアランは夜勤明けであったが、愛世が朝食をとるなら一緒にと思い、彼女の部屋を訪れた。

「アイセ」

小さく呼ぶが、返事がない。

愛世はまだ眠っていた。

部屋を見回すと見慣れぬ服がディアランの眼にとまり、彼はわずかに眉をあげた。

壁にかけられたそれは、淡いピンクに染め上げた柔らかな絹の服で、両肩にはバラをかたどったブローチがとめられていた。

…自分が買い与えたものではない。

それに見るからに高価なものだ。

ディアランは寝台に近づき、眠っている愛世の顔を覗き込んだ。

腕を伸ばしその頬に触れると、愛世は少し動いた。

「……綺麗な服だな」

ディアランがそっと話しかけると、愛世はまだ夢の中にいるかのような声で答える。

「そんなの……着れないわ」

ディアランは誰にもらったのかと聞きたかったが、愛世は続けた。

「とてもじゃないけどもったいなくて着られない。……セロたちにからかわれちゃうわ」

…セロ?セロとは俺の部隊のセロか?

ディアランは視線を空にさ迷わせて考えた。

…よく考えれば愛世は昼間、殆んど家にいない。

一日どうしていたのかと聞いてもニコニコとして、「ちょっとね」としか答えなかった。

夕食に誘えば断らないが、誘わなければ部屋から出てこない。
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