躊躇いと戸惑いの中で


「コーヒー淹れるね」
「うん」

おとなしくリビングのソファに座る乾君は、ジャケットを脱ぎネクタイを緩めている。
私はキッチンで心が浮かれているのを隠しきれずに、鼻歌交じりで新しく買ったばかりの薬缶に水を入れ火にかけた。

お気に入りの粉を手にして、今日のカップはどれにしよう、なんて棚を覗き込んでいる私へ、乾君が鼻歌も止まる質問を投げかけてきた。

「河野さんとは、どうなってるの?」

えっ!?

カップへ伸ばしていた手がピタリと止まる。

手に持っていなくてよかった。
持っていたら、動揺して床に落としてしまっていたかもしれない。

「どうって……」

何をどう説明すればいいのか、あたふたしてしまうとうまく脳内を整理できない。

「新店へ行った時に、何かあった?」

何かあったことを、確信でもしているかのような発言だよね。

河野からされているプロポーズの事は、乾君に話していない。
あれは、私と河野の問題だから。

けど、こういう事は、包み隠さず話すべき?

「仕事だって解ってるつもりだし。解りたいと思ったんだけど。やっぱり無理かも」

ソファに座ったまま、首をこちらに向けて話す乾君の瞳がかげる。

やっぱり、電話してきた時、怒ってたんだね。

意外と、束縛タイプなのかな?
若いっていうのもあるのかな?

それとも、嫉妬されるくらい想われてる?

ああ、これは自惚れすぎてるよね。


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