幸福道
さとは軽くお母さんに挨拶をして、あたしの部屋に来た。

「うわ〜。すごいキレイに片付いてるねえ。」

「そうかな。普通だと思うけど。」

「私の部屋に比べたら超キレイ!」

「ありがと。」




さととしばらくおしゃべりしてから、玄関まで見送った。


「急に来ちゃってごめんね。また来ても良い?」
「いいよ。……まあ、連絡は欲しいけど。」

「えへへ。あっ、渡そうと思ってたんだけど…、これ、あたしのアドと番号。」

さとは鞄の中からメモを取り出してあたしに渡した。

「暇な時メールするよ。」
「うん。じゃあ、またねえ。」

「バイバイ。」



夕食を食べて、お風呂に入った。

浴槽に浸かるのは好きじゃなくて、いつもシャワーだけ。

できるだけ温度を高くして、年中冷えている体を温めた。



あたしの金色の髪は、何度も重ねたブリーチで枝毛だらけ。


中学は染め禁止だから、もちろん校則違反。

本当は、あたしだって、黒髪が好き。


でも、人と同じってのが嫌だった。


小6の時は茶髪にして、初めて万引きをした。


中1の時は赤髪にして、ピアスを開けた。


思い切り開けた穴はろくに消毒もしていなくて、今でもたまに痛む。

中2の髪は金にした。

周りの反応や視線の痛さには、もう慣れてた。


あたしが万引きをしたり人と違うことをしたりするのは、変わりたいと思うからなんだ。

周りの大人たちの気を引けるのも嬉しかった。

でも、分かってくれる人はいなかった。


時計の短針が数字の2を指し、あたしは眠気に襲われた。

最近、寝るのが嫌いだ。
寝ても覚めても同じだけ時間があるのだから、寝るのはもったいない。



ピピピピ……。

あたしはイスの上で目が覚めた。

昨日は夜を徹するつもりだったのにな、と呟く。

外の天気は良いらしく、窓からは太陽の光が燦々と降り注いでいる。


今日は、さとにメールをしてみよう。

少しだけ、おしゃべりもしたい。


あたしは窓とカーテンを開けて、太陽に向かって微笑んだ。
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