『綺麗だよ』とか『似合っているよ』とか、褒め言葉を毎日言って欲しいわけじゃない。

だた、料理が上手に作れた時には『美味しいよ』とか、花を新しくアレンジメントしたら『綺麗だね』とか言葉にして欲しいだけ。

同窓会会場のホテルのバンケットルームでそう愚痴をこぼす私を白い目で見つめるのは、高校時代からの友人である薫だ。

「庭付きの豪邸で何不自由なく暮らせるのは、毎日一生懸命に働いてくれる旦那様のおかげでしょう?それに真菜(まな)ちゃんだって元気に成長しているんだし。それ以上のことを望んだら罰が当たるよ」

「でも!」

「でもじゃないわよ。私なんか一人で生きて行くために、毎日必死になって仕事しているんだから。菜摘(なつみ)の愚痴は贅沢な悩みにしか聞こえないよ」

薫はそう言いながら、オードブルのサーモンを口にする。

黒髪のロングヘアが似合っている薫の言うことは、きっと間違っていない。

私が専業主婦でいられるのは夫が歯科の開業医で、それなりの収入があるから。

そして一人娘の真菜はすくすくと成長をして、今年の春に幼稚園に通い始めたばかり。

「まあまあ。今日は同窓会なんだから家のこととか仕事のこととか忘れようよ。ね?」

私と薫の間を仲裁するのは、三児のママである浩美。

周りを和ませる穏やかな性格と丸みを帯びた体型は、昔からちっとも変っていない。

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