七瀬透子(ななせとうこ)の朝は早い。


なぜなら、彼女は毎朝『擬態』を施さなければならないからだ。


顔を洗って前髪が落ちて来ないようにヘアバンドで止めてから、化粧台の前に座る。


この鏡台は母が使っていたお下がりだ。

古くてたくさん傷があるけれど、鏡が大きくて使いやすいのは気に入っている。


鏡の前には、誰もが振り向くような絶世の美女がいた。


しかし、このままでは外を歩けない。


透子はまず形のいい眉をアイブロウペンシルでぐりぐりと塗りつぶす。
するとすらっとした眉は消え、やぼったい眉毛が現れる。


次にぱっちりとした二重の目の上に、冬馬(とうま)からもらった特殊なフィルムを貼り付ける。


「よし」


大きくて印象的だった目は姿を消し、腫れぼったく重い雰囲気になる。


高い鼻の周りにも肌色のシリコンを貼り付ける。

すっと通った鼻は、輪郭がぼやけつぶれて低くなった。


「ふぅ」

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