口の悪い、彼は。
 

「ここに伝票置いとくな」

「っ!」


伝票がデスクの上に置かれ、その上で喜多村さんの指がトンっと弾んだのが突然目に入ってきて、私は肩をビクッと震わせてしまう。

でも何とか平静を装って、私はこくっと頷いた。


「は、はい……」


私が何やかんやとぐるぐる考えている間に、いつの間にか喜多村さんが私のところまで歩み寄ってきていたらしい。

喜多村さんに気付かれてない……?

肩を震わせてしまったこと。……そして、泣いてしまいそうなこと。

私は誤魔化すようにして、デスクの上に置かれた伝票に手を伸ばし、俯いたまま、パラパラとめくって内容を確認するふりをする。

お願い。気付かないで。


「……なぁ、高橋。やっぱり何かあったんじゃないのかー?何か暗いじゃん~」

「っ!」


俯いたままの私の頭を、喜多村さんがぽんぽんと撫でてくる。

そのあたたかさについ気が緩んでしまって、目頭が一気に熱くなってしまった私はすごく焦った。

これ、マズい。

泣きたくなんかないのに、勝手に涙が……っ。

一旦潤み出してしまった目には、どんどん涙が溢れて溜まっていく。

私はもう、顔を上げることなんてできなかった。


「……っ」


喜多村さんの言葉に何も答えることができないまま、ただ、ふるふると首を横に振ることしかできない。

声を出してしまえば、泣いていることに気付かれてしまう……。

それだけは避けたい。

 
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