外は朝からずっと大雨だ。



ビルに激しく叩きつけてくる雨は窓ガラスの向こうでまるで滝のような勢いで流れ落ちている。クリスマスに都内でこれだけまとまった雨が降るのは数十年ぶりらしい。


煙草休憩の合間に何気なく事務所のテレビを点ければ、どこの局のキャスターも、この豪雨をとても残念なことのように言っている。

ここ一週間は毎日のように東京駅のイルミネーションを映していたお天気コーナーの定点カメラは、連日楽しげに身を寄せ合うカップルや学生たちを映していたのに、今日の画面の中はクリスマスだとは思えないような人のまばらさで、誰もが明滅する光の横を傘を手に足早に通り過ぎていた。



今夜の天気を恨めしがっているであろう世のカップルどもに、俺は煙草を喫みながら「ざまァ見やがれ」とほくそ笑む。



時刻はもうすぐ19時。

雨が弱まった頃に帰ろうとしているうちに、午前からの休日出勤はこんな時間になっていた。今年は土曜日と重なった12月25日。世間の大半の人間は、今頃家族でクリスマスパーティーだとか、カップルでディナーだとか、そんなものを楽しんでいる時間だろう。


「なあ。腹減ったな」


俺と同じくクリスマスだというのにまだ仕事に追われている美雪に、何気なく話しかけた。するとパソコンを動かしていた美雪は、俺に背を向けたまま突然切り出してきた。



「ねえ巧。実はね、私。今日、退職願い出したの」



美雪が「そろそろ仕事辞め時かな」と言い出すのは今日が初めてのことじゃない。むしろウチの職場じゃ社長も含め、みんな挨拶代わりに毎日のように「辞めたい」「辞めてやる」って口にしてる。


だから一瞬息を詰めた俺も、すぐにいつものように軽い言葉を返していた。



「ふぅん。退職ねえ。まあウチ、ブラック企業だからな」


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