ふわふわ。
ふわふわ。

今日も残業中。
私はきっと「頼みやすい人」なんだろう。

就業時間はとっくに過ぎて、いつもの面子が一人減り、また、一人減り。

誰もいなくなった部署の電気は消されて、多少薄暗くなったいつものフロアはそれだけで異空間。

今日の打ち込みもなかなか終わらないなぁ。

打ち込みを続けていた指先が疲れてきたし、目がパシパシしてきた。

目薬を差そうと手を止めて、そう遠くはないデスクの方で、同じようにキーボードを打ち込んでいた、その音が消えているのに気がついた。

時計は23時過ぎ。

少し癖のある髪と冷静沈着で整った顔。
いつもより男らしく見えるのは、たぶん珍しくネクタイを外して、ワイシャツを腕捲りしているせいだろう。

倉坂さんが、困ったような視線で私を見ていた。

「打ち込みなら手伝います」

「駄目です。これは私の仕事です」

「しかし、終電逃しますよ?」

問題はそこだよね。

「この際です。ビジネスホテルにでも泊まりますよ」

疲れてきたし、電車はパスしたい。

「本当に温泉に行きたい」

「今度泊まりで行きましょう」

サラリと誘われて、モニターと倉坂さんを見比べた。

最近はよく二人でご飯を食べに行く。

休日に映画を観に行ったり、バッティングセンターに行ったりもした。

決定的な事はないまま、曖昧な関係に何故か落ち着いている。

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