年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~

「もう帰らないと、今日も仕事でしょう? 今なら一度家に帰る時間ありますから」

「……ん」

「一度でも俺を選ぼうとしてくれて、嬉しかったです」

「ん……」

「モデルも、引き受けてくれて、ありがとうございました」

「……」


まだ泣き続ける私の手を取って、大輔くんが立たせてくれた。隅に置いてあったカバンを取って、渡してくれる。

私はなんで泣いてるんだろう。

大輔くんと離れたくないのなら、今ここでもう一度彼を選ぶと言って、抱きつくなり押し倒すなりすればいい。そうする気もないくせに、なんでこんなに悲しい気持ちに浸っているんだろう。


大輔くんがまた私の頬を拭ってから、そっとその手で頬を包み込む。
見上げる私にもう一度笑って見せてから、私の体を玄関の方へ向かせた。


「さよなら、沙羽さん」


とん、と背中を押してくれて、それを最後に彼の手の温かさが離れていく。


私はその温かさを振り切るように歩き出した。絶対に振り向かないように強く念じながら玄関に出る。靴を履きながら、ずっと泣き続けていた。それでも後ろは向かないで、ようやく部屋の外に出る。


バタン、と扉が閉まって、もう完全に大輔くんの気配がわからなくなった。立ち止まったら座り込んで、そのまま動けなくなりそうで怖くて、私は泣きながら前を向いて、必死に足を動かした。
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