年下ワンコとオオカミ男~後悔しない、恋のために~
「結局この夏はどこにも行けなさそうですね。……すみません」

どことなく申し訳なさそうに言う彼に、笑って答える。

「大輔くんのせいじゃないし。いいじゃない、こうやってのんびりするのも好きだよ、私」

ほとんど連休というものが取れないらしい大輔くんが、唯一長めに休めるのがお盆とお正月。お盆は私もお休みなので、近場でいいから旅行でも行こうか、と話していたのだけど、彼のお休みと私の休みが微妙に合わなくて、結局一日重なっただけだった。
しかもその一日も、どうしても断れない大事なお客さんの予約が入ったそうで、午前中だけお店に出るらしい。結局いつも通り部屋で過ごすか、出かけるとしても買い物程度で終わりそうで、私はそれで充分満足だけど、大輔くん的には納得いかないみたい。


思い出に残るようなことをしたいんですよね、と、何かの拍子に大輔くんはこぼしていた。

なんでもいい、あの夏はどこへ行ったね、と後から思い出せるようなことを。


彼が私に片想いをしてくれていた間に、私が祥裄と過ごした時間を、早く塗り替えたい、と思っているようだった。私が選んだのは祥裄ではなく大輔くんだと頭ではわかっていても、心のどこか片隅に不安な気持ちが残っているようで、それがごくたまにだけど、顔を出す。

「海行ったりとかしたかったなあ」

子供のような落ち込んだ声に、私は笑って答える。

「お盆に海行ったってクラゲばっかりできっと泳げないよ」

それに三十歳の水着姿なんてとても他人様にお見せできない。海なんていつ以来行ってないだろうか。


「また来年があるよ。再来年もその先も、ずーっと」


思い出なんて、これから積み重ねていけばいい。
そんな気持ちを込めて私が言うと、目を開けてこちらを見上げた大輔くんが、はい、と嬉しそうにふわりと笑った。
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