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「以前、車上荒らしにあったんだ。その時に鍵を盗まれた。とは言っても、鍵に住所を書いてあるわけでもないし、車の中に住所を特定出来るような物もなく、かつ、家の鍵はその日の内にーーそうだな、半日もかからない内に交換してもらったんだ。

家に入った奴もいないと思っていたら、もう、“アレ”は中に入っていたんだろう。うん、家の中、調べ尽くした。そこで、浴室天井にある点検口も見た。中はダクトとかあっても空洞でね、確かにあの巨漢でも入れるほどにはあった。しかもか、壁に穴開けられて、外と通じていたし。電動ドリルや、大層な機械が残っていたよ。

一度目は盗んだ鍵で中に入り。二回目からは、点検口内部の壁に開けた穴から出入りしていたみたいだ。浴室と外は隣接しているから。君の物を収集するためにあるような家だけど、そう毎日来ているわけじゃない。仕事や、君に会いに行くことで忙しかったものだから、来てもすぐアパートに戻って、浴室自体、そう足を踏み入れることはなかった。近隣住民もいないし、大きな音を立てても気付かれなかっただろうね。

本当にまいったよ。君ばかりを見て、自分のことが疎かだった。もう同じ轍は踏まないよう、点検口にトラバサミ置いといたから。入ればたちまち、指がなくなるかもね。

大丈夫。次なんて、ない。大事な君がいるんだ、誰も入らせない。君はあの部屋でゆっくりしていればいいよ。俺が出ていったら、きちんと鍵をかけてね。そう、鍵だよ。南京錠。俺が帰るときはきちんと連絡するから。それ以外の訪問があっても、開けてはいけないよ。全部、君のため。君のためにならないことなんか、全部、間違っているのだから。そう、そうだよ。うん、ありがとう。

部屋、何か足りないものある?君の部屋の物は処分しといたから、なかったら言って。家具も、服も、同じに揃えたんだ。昔からある物とかは、さすがにどのお店で買ったか分からなくて似たような物を揃えることしか出来なかったけど、あの栗色のコートやブラウスなんかは、ゴミ袋からレシート見つけて、その店から同じ物を買ってきたから間違いないよ。

あ、ごめん。イヤだよね、ゴミ集められるのは。もう処分したよ。君が使ったものと見ると、どうしても、ゴミ収集の奴らに持って行かれるのが我慢ならなくて。つい。ごめん、本当に。コレクションしていた。どれもが宝物だよ。君が使ったと思えば、宝石にも見えるほど大切に思えた。

うん、もうしない。しないから。寂しさを埋めていたのもあるし。もう、ここに君がいるんだ。君の名残がある物に囲まれて寂しさを埋めることもしなくていいものね。

写真も捨てた。君に黙って撮っていた物。まだ付き合ってない時からの。そう。少しでも君に関わる物に触れてなければ、理性をなくして襲っていたかもしれない。歯止めだった。傷つけたくないから、見るだけで満足しようと思った。

でも、君は俺を好きだと言ってくれた。初めてのツーショットで、あんなにも幸せそうに笑ってくれて。そこからの写真は、ただ純粋に笑う君を撮りたいが一心だよ。ああ、うん。初めてのツーショット、壁一面に飾ったあれ。“アレ”がやったんだろう。酷い嫉妬だけど、俺も君と付き合えなかったら、“アレ”と同じことをしていたのかと考えてしまう。そうならないために、ギリギリのところで理性を保てるようにしたけど。

いや、やっぱり、ならない。俺は“アレ”とは違うよ。何があっても、君を傷付けない。守りたい、幸せにしたい、心の底から愛している、もう君しか要らないほど、自分の命を投げうってでも大切なんだ。

ねえ、聞いている?君だって、そうだからこそ、俺を愛してくれているんだろうし。

ん?三葉?ーーああ、怪我の心配してくれているの?平気だよ。痛いけど、こうして、三葉を抱きしめていれば気にならない。もっと甘えて。いいよ、もっと。聞いている?ああ、甘えているのは俺か。

嬉しいからだね。猫なら喉からゴロゴロ言えそう。幸せだから、痛いのも平気だ。顔の傷ーー“アレ”がボールペンで“落書き”したものだから、少し残るし、指の骨折もまだまだかかるけど、大丈夫。三葉が無事ならそれでいい。三葉は大丈夫だよね?ねえ、聞いている?

何か食べようか。一緒に作ろう。新婚さんみたく。そう。この前、婚姻届出したから。君の退学届けを出すついでに。結婚式はしなくてもいいよね。君のウエディング姿を他の奴らに見られたくないけど……女性はやっぱり憧れる?結婚式したい?ねえ、聞いている?

じゃあ、写真だけでも撮ろうか。“アレ”に台無しにされた初めてのツーショットの代わりにそれを飾ろう。今度、パンフレットを持ってくるから。

そういえば、聞いてよ。“アレ”、処分してきたんだけど、やっぱりトイレにつまってて、慌てる一方で笑っちゃったよ。本当に。はは、大丈夫。きちんと流れた。まあ、死体ばれても、身元分からないように滅茶苦茶にして、県外に捨ててきたからさ、誰も俺たちには辿り着かないよ。一応、三葉のストーカーだったし、君に繋がる物ないか、持っていた財布の身分証から“アレ”の家に行ったけど、特に何もなかった。念のため、燃やしてきた。野次馬してたけど、近所の人が『やっぱり、あそこの人は』とかなんとか話していたから、もともとトラブルを抱えている奴だったのかもね。

三葉は優しいから。大学で何か接点を持ったんじゃない?ねえ、聞いている?これからは外に出ず、ここにいて。また怖い目に合うよ。ねえ、聞いている?

俺も怖いよ。また、あんな奴が出ると思うと。怖い。うん、震えるほど。寒くなった。暖めて。うん、甘えているのはやっぱり、俺だね。恥ずかしいけど、こうさせて。後ろから抱きしめているから。こうされるの好きだよね。ねえ、聞いている?

三葉、三葉。泣かなくていいんだ。もう、泣かなくていい。ねえ、聞いている?

これからは、君の視界に入るのは俺だけになるのだから。他の奴は誰も来ない。誰も三葉のことを知り得ない。三葉を知っている奴も、いずれは忘れる。この世で三葉のことを知っているのは俺だけになるのも、時間の問題だ。ねえ、聞いている?

嬉しいだろう?三葉も言っていたじゃないか。俺と一緒にいたいって。叶ったよ、叶えた。三葉の夢は他でもない俺が叶える。幸せになったよね?ねえ、聞いている?

俺のこと、もっと愛してくれるか?俺はずっと、君のことでいっぱいだ。際限なく想いが溢れるよ。ねえ、どう?聞いている?

まだ泣くのか。ああ、そうか。『嬉しい夢でも泣ける』と言っていたものね。そうか、嬉しくて泣いているのか。なら、俺のこれもそうだよね。ねえ、聞いている?

君と同じだ。こうして、君と二人っきりになれて、泣くほど嬉しい。抱きしめられる距離にいられて、誰にも邪魔されず、俺の声と君の息づかいしか聞こえないこの場所にいられることが。君はどう?ねえ、聞いている?

三葉、聞いている?ねえ、聞いている?聞いているよね?聞こえないわけないだろう?こんなにも近いのだから。聞いて、聞いてくれ、最後まで、きちんと、聞いてよ、ねえ、聞いて?聞いてくれないか?三葉、聞いてほしい。俺がどれほどまでに、君を愛して、今に至るのかを」

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