妖刀奇譚
「ねえ、被害を受けたのって6組の子でしょ、絶対」
「それあたしも思った、あの子昨日まで超ロングだったもんね」
「あ、そういえばこの間、吹奏楽部の部長が髪切られたって噂聞いたけど、あれってガチ?」
「西山先輩だっけ?
確かあの人もめっちゃ奇麗な髪してたよね」
「髪だけ切るとかキモくない?どんだけ髪フェチなんだよ」
「振り返っても誰もいないってのがね……」
「うちのクラスだと、霧崎さんあたり危なそうだよね……他にもグレーな人、けっこういるよ」
「花実(はなみ)、あんた切られるかもよ」
「うわー、絶対嫌」
花実と呼ばれた、ポニーテールの女子が顔をしかめて両腕を抱く。
筆箱を教科書の上に載せて、思葉はぐるりと教室を見回した。
長い黒髪の女子はけっこう居る。
どこまでが『長い』に含まれるのかは微妙だが、ショートカットの割合はかなり低かった。
自分と同じように背中あたりまで伸ばしている生徒や、それ以上に長い子は半数ほど。
(もし、あたしのような目に遭う子が出てきたら……)
自分は玖皎が助けてくれた。
けれども、そんな存在はいないと考えておいた方がいい。
何が何でも付喪神を探し出して止めなければ。
思葉は机の木目を見ながら、きゅっと唇を結んだ。