続 音の生まれる場所(下)
知らない人…
翌日、病院に行った。

「檜アレルギーですね。これから飛散量も増えるから気をつけて。点鼻薬と点眼薬と飲み薬、出しときますから」
「はぁ…ありがどうございばす…」

ぺこりと頭を下げて診察室を出る。
2時間近く待って、やっと診察と思いきや数分で終了。アレルギーだの血液だの、検査代だけがやたらと高い。


「時間かかったね」

編集部のドアを開けると、三浦さんに声をかけられた。

「そうなんですよ。患者さんいっぱいで…。ほら、2週間分薬下さいって言ったらこの量ですよ…」

手に持ったビニール袋の中身を広げて見せる。

「花粉症の人って大変だね…まぁ早く時期が去るのを待つより他ないね…」

お大事に…って。やっぱ三浦さんは優しいな…。

(あんな人が旦那さんだったらいいな…奥さん羨ましい…)

小柄で可愛い人を思い浮かべる。真っ直ぐな瞳で、率直に感想を言う人だった。

(あんな夫婦が理想だな…)

楽器作りしてる彼の横顔を思い出す。まだ分からない所も多いけど、一緒になるならあの人がいい…。

「そうだ。メールしとこ…」

『病院行きました。檜アレルギーらしいです。これからまだヒドくなるから気をつけてって言われました。薬沢山もらって、飲んだり差したりしなきゃいけないから大変です…』

困り顔プラスで送る。5分後くらいに返事がきた。

『お疲れ様。原因分かって良かった。お大事に』

「これだけ…?」

画面見ながら軽くショック受ける。昨日も思ったけど、ホント素っ気ない。



「つまんないの…」

会社の昼休み。社食のテラスから夏芽に電話。愚痴聞いてもらった。

「メール短文で素っ気なくて、誰にでも送りそうな内容なの…」

味気ないんだ…と話すと、夏芽はクスクス笑い出した。

「ついこの間まで会いたい会いたい言ってたのに、会えた途端『つまんない』なんて、真由はワガママだね」

ドキッ…そ、そうかも…。

「短くても何でも返ってくるだけマシよ。私の元カレなんて、ほぼ100パー返って来なかったんだから!」

だからアイツとは別れたようなもん…と息巻く。

「いいじゃない。素っ気なくても儀礼的でも、メール打ってる間は真由のこと考えてくれてるんだよ。そう思うと嬉しいでしょ⁉︎ 」
「う…うん…まあ…」
「だったら贅沢言わない。有難く思いなさいって!」

力強い言い方。さすが夏芽だ。

「…そうだね。そうする…」

ありがと…と電話を切る。夏芽は恋愛経験豊富だから、こんなの取るに足らない悩みなんだろうけど…。

「メール打ってる間は私のこと考えてる…か」

あの短い間だけ…と思うと切ない。せめてもう二、三行言葉が欲しい。

(声聞きたいな…)
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